少し固い標題かもしれませんが、私自身が半導体関連の会社に長く勤め退任後もつきあいがありまして、なるべくわかりやすい話をブログに書いていこうかと思った次第です。

「現代社会」を支える半導体

産業のコメと言われて久しい半導体ですが、今やあらゆる身近な製品に使われ、更に用途は拡大しています。例えばクルマ1台には500個ほど、特に電気自動車(EV)では2000個くらい搭載されています。いろいろな用途で使われていまして半導体がないとクルマは動きません。米国テスラ社は2003年にEV生産を目的に設立された会社ですが、この会社のモノつくりの発想は、必要な半導体や電子部品、電池等を調達してきて組み立てる、つまり家電製品をつくるような生産プロセスに近いのが特徴です。そのテスラ社は昨年、時価総額で世界企業ベスト10に入りました。因みにトヨタは32位です。決算会見で豊田社長は、数兆円規模の利益を出しながらも常に「クルマ会社存続の危機」を訴え続けています。また、ソニーが独自開発したEVをここで公開したのも象徴的でした。エンジン等の熟練技術やクルマ製造の実績がなくても業界参入できるようになっているのです。このブログを書いていたら、3/16にシャープを子会社にした台湾の鴻海(ホンハイ)社が、EV生産で米国に工場をつくるという発表もありました。

深刻化する世界的な半導体不足

さて、その半導体が世界的に不足しています。年明け以降、世界のクルマメーカーは減産に踏み切りました。最も大きな要因は半導体不足です。少しややこしいのですが、昨年春のコロナショックでメーカー各社は、一度減産体制を決めて半導体等の備品供給を抑制する契約を進めました。ところが、実は販売があまり落ち込まずに急回復し、各社は慌てて生産ペースを引き上げようとしたのです。しかし、このペースに半導体メーカーの増産が追いついていないのです。マイコンやセンサーなど特殊半導体だけでもクルマ1台に数十個以上は必要で、これらを揃えられなくなっているのです。部品メーカーの部品も結局のところ中身は半導体を使っているものが多く、同じように不足状況になりました。また、昨年10月に旭化成延岡工場で火災があり復旧時期は未だに不明です。日本各社は特にここの特殊半導体不足の影響も受けることになりました。そこで、年明けには車載半導体で世界3位のルネサスエレクトロニクス社が代替生産を表明しました。

ルネサスエレクトロニクス株式会社ホームページより

ルネサス社の車載半導体工場は、茨城県ひたちなか市の那珂工場が主力です。これは呪われてでもいるのではないかと思うのですが、この那珂工場で3/19未明クリーンルーム内の火災が発生しました。現在操業を停止しています。ルネサス社は1ヶ月以内の創業再開を目指すとしましたがこれはほとんど無理な話で、専門家からは半年程度かかるのではないかとも言われています。半導体工場というのは24時間フルで製造装置を稼働させ生産しています。この火災で10台以上の製造装置を焼損させてしまい、創業再開のためにはまず製造装置の修理と調達が必要であり、クリーンルームの清掃にも相当な時間を要します。そして、世界的な半導体不足の現況下、1台数億円以上する高価な半導体装置ですが、その需要も当然のことながら逼迫していて供給が追いつきません。更なる代替生産を他社に依頼しようと世界を見渡しても実はそう簡単にいきません。半導体の受託生産(ファウンドリ)世界1位の台湾TSMC社はもうすでに注文が殺到しています。欧州のNXP社(オランダ)、インフィネオン社(独)も余裕がないことに加え寒波の影響で一部操業を停止しています。クルマは日本の基幹産業の一つですから、その日本のクルマ生産低下に直結している状況に関して、政府は、3/22の記者会見で加藤官房長官は「代替の製造装置の調達支援など政府としてしっかり取り組む」と述べました。

当面はこの半導体不足の状況は続くと思われます。実は今年の後半には半導体メーカーの増産体制が追いつくのではないかと少々楽観的に考えていたのですが、まだまだ遠いコロナ終息、経済回復、米中対立など不確定要因が山ほどある中、ここ数日のニュースを集めただけで楽観視できないことを確認させられました。

今回は、クルマ用半導体の話が中心になりました。次はもう少し広い製品や半導体製造の日本の技術力、技術流出のことなどを書きたいと思います。
暖かい日が続き、東京都内でも桜が各地で開花していますね。
体調に気を付けてお過ごしください。