前回、「ぐらんぱのひとり言~最近の半導体事情①~」で、クルマを中心とした半導体事情をザッと書きました。その後まだ1週間ですが、様々な情報がありましたので、少し補足しておきたくなりました。
300mm生産ラインの停止
まず3/19に火災があったルネサス社那珂工場は、想像していた通り、1ヶ月で操業再開出来るような状況にはなさそうで、使用不能になった製造装置の台数も拡大しているようです。クリーンルーム内のすすなどの影響が出たと思われます。
半導体の生産というのは、およそ500にも及ぶ製造工程があって、その大半はクリーンルーム内で自動化・無人化された工程を流れる生産ラインです。基本的にどこか1箇所でもストップするとライン全体の操業を止めることになります。ルネサス社の火災についてもう少し正確にいうと、火災があったのはN3棟(300mmライン)、つまり現在停止しているのはこのN3棟の生産ラインです。N2棟(200mm)やWT棟(ウエハテストライン)は稼働しています。また、300mmというのは、半導体ウエハ(円盤)の直径の大きさのことです。この300mmウエハに最先端の微細化技術を駆使して最先端の電子回路をつくり込んでいき、最終的にはウエハをカットして一つ一つのチップ(半導体)にします。
2月の地震対応と今回の火災
先月2/13、福島県沖を震源とする東日本大震災の余震が発生しました。この時ひたちなか市は震度5弱、那珂工場の生産ラインは一旦全てストップしました。点検し不具合があれば調整し操業を再開したのは2日後でした。半導体を知る人なら短時間での再開だった、10年前の東日本大震災の教訓が活きているな、という感想を持ったかもしれません。そう報道しているメディアもありました。ルネサス社の名誉のために書いておきますが(私は同社OBではありません)、同社の防災、BCP(事業継続計画)体制はおそらく世界でも最も進んでいます。私も同工場を訪問したことがあり工場見学と説明を興味深く受けました。同社は2011年3月11日の東日本大震災によって起こった大被害の教訓から多くのことを学び、防災システムをつくりあげました。その内容は関連業界を中心に広く啓蒙がはかられました。
そうした中、2月の地震対応があってそれから1ヶ月ほどして今回の火災です。え?どうした?何が起きている? という複雑な思いになりましたが、とにかく人的被害がなかったことをよしとして原因究明が待たれます。
そうした中、2月の地震対応があってそれから1ヶ月ほどして今回の火災です。え?どうした?何が起きている? という複雑な思いになりましたが、とにかく人的被害がなかったことをよしとして原因究明が待たれます。
半導体不足、政府が動く
さて、世界的な半導体不足の影響はクルマ生産に深刻なだけでなく多方面に拡がりつつあります。政府が支援を言い出したことを前回書きましたが、3/30には梶山経産相が代替生産を台湾企業に要請している旨の報道もありました。台湾には半導体受託生産(ファウンドリ)で世界No.1のTSMC社があります。ここは自社ブランドを持たないことで世界中の会社との受託生産取引を伸ばし成長してきたという特徴があります。製造だけでなく、設計開発を含めた生産委託を受けることで技術開発力も非常に高い。台湾には他にもUMC社やPowerChip社など同様の大規模ファウンドリ会社があり、日本政府・ルネサス社はこのあたりと話をしているのだろうと思われます。ただ、いずれも生産は逼迫しているはずです。。。韓国のサムスンとSKハイニクス社もファウンドリ事業部門はあるのですが、さすがに現在の日韓関係を考えると両社に受託生産の話を持っていくほど政府も阿呆ではないでしょう。中国にもSMIC社という国策の巨大ファウンダリ会社がありますが、こことの取引で政府が動くのも考えにくくなりました。
「半導体」はすでに国家戦略であり、具体的に外交戦略として動いていることを実感します。
「半導体」はすでに国家戦略であり、具体的に外交戦略として動いていることを実感します。